金継ぎとは欠けたり割れたりした器を漆で継ぎ、金や銀で化粧して繕う修復技術のことです。
この技法は、15世紀頃の茶の湯の発展の中で生まれました。
当時は戦国時代とも言われる長く戦乱の続いた時代で、茶を楽しむことや茶会を開くこと、道具を愛でることなどは、戦の中のひとときの楽しみでもありました。
また同時期に、長引く戦乱による人々の意識と、中国から入ってきた禅の思想は合わさり、「わび・さび」と言われる新しい美意識が生まれました。質素で寂れたものや不完全であることなど、それまでネガティブに捉えられていたものに美を見出し、ポジティブに捉え直したその思想は茶や俳句など様々な文化に影響を与えました。
そのような歴史背景の中で生まれた金継ぎは、「わび・さび」の精神の現れであると言われています。
近年日本では、高価な器だけではなく日常使いの器も金継ぎ師に修繕を依頼をしたり、ワークショップに参加して大事な器を自分で修繕する人も増えてきました。そのきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災です。震災では家や物だけでなく風景まで、あらゆる物が破壊されました。直せないものばかりの中、修復技術のある器等は直す動向が見られ、それは物を大事にする気持ちの他、金継ぎによって新しく蘇った器にどこか希望を感じる人が多かったからではないでしょうか。
そして図らずも現在2020年は世界規模での大転換期。このような先が見え辛い不安定な世の中において、一見ネガティブに見えるものをポジティブに捉え直す「わび・さび」の精神の現れでもある金継ぎは、人々の心を鎮める作用があるように思えてなりません。また、手を動かし天然素材である漆を使い、時間をかけて直すことは、どこか瞑想に似た内省的時間が流れています。家で過ごす時間も増えた今、この技術を多くの人に愉しんで頂ければ幸いで
す。